腰痛は介護の職業病です。
近年ノーリフティングケアによる腰痛予防が話題となってきました。介護者への負担を減らし、腰痛や事故を防ぐ効果が期待されているからです。
腰痛に悩まされることなく介護の仕事ができるようになったら嬉しい限りですよね。
そこで今回はノーリフティングケアについて解説し、メリットや実践的な取り組み方をご紹介します。
ノーリフティングケアとは?
ノーリフティングケアは「持ち上げない介護」と呼ばれるケアメソッドです。
2002年に介護者の腰痛予防を目的として、オーストラリアで考案されました。
当時オーストラリアは腰痛による介護職の離職が深刻でした。ですがノーリフティングケアの導入により労災申請や移乗介助時の怪我が減少し、介護職の離職率は改善傾向にあるようです。
日本でも介護職員の腰痛は問題視されており、腰痛改善に向けた取り組みとしてノーリフティングケアが注目されています。
ノーリフティングケアの概要
ノーリフティングケアの基本は無理な姿勢でケアを行わないことです。福祉用具を活用して、介護者や利用者への負担を最小限にすることを目指します。
具体的な考え方は、次の5つの動作を人力ではなるべく行わないことです。
- 押す
- 引く
- 持ち上げる
- 運ぶ
- 体をねじる
上記の動作は介護度の高い利用者を移乗介助する際に行われます。
特別養護老人ホームや老人保健施設では重度化の進んだ利用者が多く、身体に負担のかかる動作の日常化により、腰痛が深刻な問題となっています。
ノーリフティングケアでは抱える動作を控え、リフトや移乗用のボードを使用するのが特徴です。
適切な福祉用具の使用により、無理な姿勢や身体に負担のかかる動作を減らし、腰痛予防に高い効果が期待されています。
腰痛は介護の職業病
介護職員の半数近くを悩ませているのが腰痛です。
介護現場では腰に負担のかかる業務が多く、無理な動作や姿勢が腰痛の原因となっています。
具体的には長く前傾や中腰の姿勢を維持していたり、介助の際に腰を捻ったり伸ばしたりする場合に腰に強い負担がかかります。急に強い負荷が腰にかかったり、慢性的に腰に負担がかかっていたりすると、骨や筋肉に異常をきたし、腰痛が発生するのです。
介護現場で行われている対策は定期的な健康診断による問診や始業前のストレッチの推奨、正しい介護技術の習得などがあります。腰痛対策は個人の努力に頼っているのが現状であり、抜本的な改善は難しい状況です。
厚生労働省としても平成25年の腰痛予防対策指針の改定や様々な発信により介護現場の腰痛対策に乗り出していますが、目立った成果は挙げられていません。
ノーリフティングケアが解決できること
ノーリフティングケアは介護現場の腰痛問題を解決に導くことができます。
適切な設備の導入や福祉用具を活用することにより、個人の努力のみに頼ることなく組織として腰痛問題に対応できるからです。
介護の仕事は腰痛が発生しやすい業態でありながら、腰痛への対策はほとんど個人の努力に任されています。ですがノーリフティングケアでは、設備や福祉用具といった介護事業所側の視点から腰痛対策にアプローチをかけることが可能です。
個人の努力のみに頼って腰痛対策を行うよりも、福祉用具を適切に利用できる環境を作って事業所全体で腰痛対策に取り組んだ方が、大きな効果を上げられることは明白でしょう。
ノーリフティングケアのメリット
ノーリフティングケアには3つのメリットがあります。
- 介護者の腰痛予防が期待できる
- より安全に利用者の移乗介助が行える
- 利用者の自立支援に繋がる
ノーリフティングケアの主なメリットは、福祉用具を適切な使用による介護者の腰痛予防です。
加えて、介護者の負担を軽減することが安全な介助へと繋がり、利用者の安全を守る側面もあります。
福祉用具が利用者の身体を支える役目を担っていれば、介護者は余裕をもって利用者の安全に気を配ることができ、事故の防止にも役立つからです。
介助は介護者の技量に安定感が左右される傾向にありますが、福祉用具を使用すれば技術的に未熟な介護者でも安全に介助を行えるのも大きな特徴でしょう。
また福祉用具の適切な使用は介護者による過剰介助を防ぎます。
利用者の身体機能を活用した利用者主体の介助が行え、生活の質の向上や自立支援の効果が期待できるのもメリットです。人力での介助は利用者に「他人にお世話してもらっている感覚」を与えやすく、介助への依存を招きやすい傾向があります。
反対に福祉用具の使用は主体的に行動している感覚になりやすく、自立への意識が高まる効果が期待できます。
実践的なノーリフティングケアの取り組み方
ノーリフティングケアを実践的に取り組むには、手ごろな福祉用具の活用が必須となります。
コストの高い大型の設備や新しい設備は導入が難しく、身近な介護材料や資源を工夫して使用する必要があるからです。
具体的には以下のような例があります。
- ベッドと車いす間の移乗の際に移乗用のスライディングボードを使う
- 立ち上がりの際は掴まって体重を支えられるバーや手すり、ボードなどを使う
- ベッドとストレッチャー間を並行に移乗介助する際はスライディングシートを使う
スライディングボードやシートは比較的安価であり、導入が簡単な福祉用具です。立ち上がりのサポートとしては動かない手すりや台座、介護者の身体も優秀な支えとなります。
ノーリフティングケアの考え方を取り入れて、福祉用具の活用や介助方法の見直しを行えば、介護事業所全体として腰痛予防への意識を高めることに繋がるでしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
ノーリフティングケアのメリットや実践的な取り組み方についてご理解いただけたでしょうか?
- ノーリフティングケアは介護職の腰痛予防を目的としたケアメソッド
- ノーリフティングケアのメリットは、腰痛予防、安全な介助、自立支援の促進
- ノーリフティングケアの実践には安価な福祉用具や身近な介護材料の活用が必須
以上参考になったらうれしいです。
ノーリフティングケアは腰痛予防だけにとどまらない先進的なケアメソッドです。
新しい考え方を知れば自然と意識も変わってきます。
是非ともノーリフティングケアの考え方を取り入れて、介助方法の見直しや福祉用具導入の検討など、小さなことから始めてみてください。
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